構造化処理開発ガイド
実際のデータを用いた構造化処理の実装方法
このドキュメントは、RigakuのX線回折装置(XRD)から出力されるRASファイルを処理し、RDEに登録するための構造化処理を、RDEToolKitライブラリを使用して構築する方法を説明します。
データ利用に関する謝辞
本ドキュメントで使用するサンプルデータおよび関連する技術情報は、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の「NIMS Materials Data Conversion Tools (M-DaC)」プロジェクトから提供されています。M-DaCプロジェクトは、計測機器メーカーとの協力により開発された、実験データの効率的な収集と高付加価値化を目的とした技術開発の成果です。
謝辞:
- データ提供: 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
- プロジェクト: NIMS Materials Data Conversion Tools (M-DaC) for XRD
- 共同開発: 株式会社リガク
- ライセンス: MIT License
- 引用: H. Nagao, S. Matsunami, M. Suzuki, and H. Yoshikawa: "NIMS Materials Data Conversion Tools (M-DaC) ver 1.1"
このプロジェクトの成果を活用することで、実際の研究現場で使用されているデータ形式に基づいた実践的な学習が可能になります。NIMSおよび関連するすべての研究者・技術者の皆様に深く感謝いたします。
RASファイルについて
データ形式の特徴
RASファイル(Rigaku)は、Rigaku社のX線回折装置SmartLabなどから出力される標準的なデータ形式です。以下の特徴があります:
- ASCII形式: テキストベースのファイル形式で、人間が読める形式
- 構造化されたメタデータ: 測定条件、装置設定、サンプル情報などが体系的に記録
- 3列データ: 角度、強度、減衰補正係数の3列で構成される測定データ
- 区切り文字: アスタリスク(*)で始まる行がメタデータとコメントを示す
ファイル構造
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rdetoolkitを使ってRDE構造化処理を構築する
RDE構造化処理の開発プロセス
本ドキュメントで示す開発プロセスは一例です。利用者のニーズに応じて調整してください。
flowchart TD
%% 全体の向きを縦(Top→Bottom)に指定
subgraph RDE構造化処理開発プロセス
direction TB
style RDE構造化処理開発プロセス fill:#f0f4f8,stroke:#333,stroke-width:2px,rx:10,ry:10
end
%% ノードの共通スタイル定義
classDef step fill:#cfe2f3,stroke:#333,stroke-width:1.5px,rx:5,ry:5,font-size:14px;
%% 各ステップ
A[🔍 抽出するメタデータを選択する]:::step --> B[🛠️ 環境構築]:::step
B --> C[📄 必要なテンプレートファイルを作成する]:::step
C --> D[💻 構造化処理を開発する]:::step
D --> E[✅ 動作確認する]:::step
RDEデータ登録で必要となる事前定義ファイル群について
RDEは再利用なデータ登録において、下記ファイルは必須となります。
templates/tasksupport/invoice.shcema.json
templates/tasksupport/metadata-def.json
RDEは、計測装置から出力されたファイルや日々の実験データファイルから抽出するべき事前メタデータ定義ファイルmetadata-def.json
と、サンプル情報(合成条件など)や計測条件など日々の実験で定型的に記録が必要な情報を、データ入力フォームを柔軟にカスタマイズできるinvoice.schema.json
。
- データ登録時に、
invoice.schema.json
を作成することで、日々の実験で必要な情報をデータ入力フォームとして定義できます。 - データ登録時に、ファイルからメタデータを自動的に抽出するための事前ファイルを
metadata-def.json
さらに、これらのファイル群は、当機構が提供するパッケージを利用することで簡易的にファイルを作成することが可能です。また、上記のファイルに加えて、個人の環境で構造化処理を構築するためのinvoice.json
も作成可能です。
抽出するメタデータを選択する(metadata-def.json)
入力データから抽出するメタデータを事前に決めておきます。利用者やプロジェクトによって、事前に定義するメタデータの数は異なります。
今回は、測定条件・試料情報・時間・トレーサビリティという観点から以下のメタデータを抽出するという方針で、
A. 測定条件(Measurement Conditions)
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B. 試料情報(Sample Information)
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C. 時間・トレーサビリティ(Temporal & Traceability)
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これらの情報をもとに、metadata-def.json
に以下のように定義します。
長文のため一文抜粋して表示しています。
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Click to view the full `metadata-def.json`
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登録フォームをカスタマイズする(invoice.schema.json)
invoice.schema.jsonを変更することで、登録フォームをカスタマイズできます。今回は、測定温度をデータ登録時に手入力で登録できるようにカスタマイズします。以下は、invoice.schema.json
の一部例です。
もしローカル環境で、カスタマイズした入力フォームを確認したい場合、以下のドキュメントを参照してください。
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環境準備
プロジェクトの初期化
uvを使用してプロジェクトを初期化します。
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pipを利用する場合
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初期化後、以下のファイルが作成されます。requirements.txtの代わりにpyproject.tomlをご利用ください。
pyproject.toml
: プロジェクトの設定とメタデータsrc/
: パッケージのソースコード(オプション)README.md
: プロジェクトの説明文書
必要なライブラリをインストール
pipを使用して、RDEToolKitライブラリをインストールします。
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uvを使う場合
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構造化処理プロジェクトの初期化
rdetoolkitを使用して、構造化処理のプロジェクトを初期化します。
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このコマンドにより、以下のディレクトリとファイルが作成されます:
- continer/: 構造化処理の実行環境を定義するディレクトリ
- container/data/: 構造化処理で使用するデータを配置するディレクトリ
- input/: 入力データを配置するディレクトリ(ローカル開発・デバッグでは利用必須ではありません。)
- templates/: 構造化処理で使用するテンプレートファイルを配置するディレクトリ(ローカル開発・デバッグでは利用必須ではありません。)
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さきほど作成した、metadata-def.json
とinvoice.schema.json
、テンプレート生成ツールで作成したinvoice.json
をcontainer/data/tasksupport/
と、templates/
に配置します。
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また、ダウンロードしてきた入力データXRD_RIGAKU.rasもcontainer/data/inputdata/
に配置します。
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設定ファイルの追加
data/tasksupport/rdeconfig.yml
ディレクトリに、RDE構造化処理で必要な設定ファイルを追加します。
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rdetoolkitが推奨する構造化処理の基本構成
rdetoolkitでは、構造化処理の基本的なディレクトリ構成を以下のように推奨しています。
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ディレクトリ/ファイル | 説明 |
---|---|
main.py | 構造化処理のエントリーポイント。開発したモジュールを呼び出します。 |
modules | カスタムモジュールを配置するディレクトリ。 |
requirements.txt | 必要なPythonパッケージを定義するファイル。 |
data | 構造化処理で使用するデータを配置するディレクトリ。 |
rdetoolkitをインストールすると、
pandas
,numpy
,matplotlib
などのデータ処理に必要なライブラリが自動的にインストールされます。これらのライブラリは、構造化処理でのデータ操作や可視化に役立ちます。
main.pyの実装
デフォルトで作成されたmain.py
は、今回のエントリーポイントとなるファイルになります。各プロジェクト・ユーザーが開発したモジュール群を呼び出すためのスクリプトです。
以下のように、rdetoolkit.workflows.run()
に開発したモジュールを引数として渡すことで、RDE構造化処理で必要なpre/post処理を含む構造化処理を実装できます。
今回開発するモジュールをmodules.mymodule.my_xrd_func()
とします。run()
の引数custom_dataset_function
にこの関数を指定します。
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カスタムモジュールの実装
container/modules/
ディレクトリにカスタムモジュールを配置します。ここでは、mymodule.py
というファイル名で、XRDデータを処理する関数を実装します。
ここで重要なポイントは、定義する関数my_xrd_func
に以下の引数を含めることです:
RdeInputDirPaths
: 入力データ各種が格納されているデータディレクトリのパス群を格納したデータクラス。RdeOutputResourcePath
: 出力リソースのディレクトリパスを格納したデータクラス。
これらのクラスに格納されているディレクトリパスを使うと、RDEシステムに安全・確実にデータを登録できます。
さらに、入力ファイルは、RdeInputDirPaths
クラスのrawfiles
属性に格納されます。srcpaths
ではなく、resource_paths.rawfiles
という配列に格納されているため、この属性の利用を推奨します。
RDEにはデータセットの中に、データタイルという単位でデータが登録されます。rdetoolkitでは、このデータタイルの単位で入力データを自動的にグルーピングし、カスタム構造化処理にデータを渡すため、
RdeInputDirPaths
のrawfiles
属性に格納されているファイルを利用します。
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つづいて、my_xrd_func
関数内で実装する処理を定義します。RDE構造化処理は、ユーザーが自身が柔軟に処理を定義できるようになっています。最も多いケースは、以下の処理系を実装することが多いです。
- 入力データを読み込み
- メタデータを抽出
- 構造化ファイルの作成
- プロット画像の作成(RDE上で可視化したグラフを閲覧するため)
以下の方針で実装します。
処理内容 | 処理内容 | 関数名 |
---|---|---|
入力データを読み込み | .ras ファイルを読み込み、計測データとメタデータを分離 |
read_ras_file |
メタデータを抽出 | 分離したメタデータを保存 | save_metadata |
構造化ファイルの作成 | 計測データのみをcsvに保存 | pandasのto_csv()を利用する |
プロット画像の作成 | XRDのプロット画像を作成 | xrd_plot |
Step1: 入力データを読み込む
read_ras_file
関数では、入力データを読み込み、計測データとメタデータを分離します。以下のように実装します。
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Step2: メタデータを保存する
save_metadata
関数では、抽出したメタデータをmetadata-def.json
に基づいて保存します。以下のように実装します。
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Step3: 構造化ファイルの作成
my_xrd_func
関数内で、計測データをCSVファイルとして保存します。以下のように実装します。
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Step4: プロット画像の作成
xrd_plot
関数では、XRDデータのプロット画像を作成します。以下のように実装します。
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Step5: 例外処理を追加する
rdetoolkit
では、構造化処理中に発生する可能性のある例外をStructuredError
として定義しています。これを利用することで、エラー発生時に適切なメッセージを表示するようにします。
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Step6: 構造化処理の動作確認
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以下のファイルが生成されていることを確認します。(空のディレクトリは表示から除外しています。)
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エラーが発生したときは
container/data/logs
以下に、rdesys.log
にログが出力されます。エラーが発生した場合は、ここにエラーメッセージが記録されます。
RDEに構造化処理を提出する
もし動作等問題がなければ、RDEに構造化処理を提出します。以下のコマンドを実行しzipが生成されるので、このzipファイルをRDEに提出します。
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